『本日は、お日柄もよく』

原田マハさんの小説。私の思い描いた理想のような人生を実現している真っ最中の、超憧れてるモダメ姐さんがオススメしていたので気になって買ってみた。

主人公は二ノ宮こと葉、普通の会社員。もちろん物語の主人公なので才能を持っている。基本物語に出てくるような人って何も持ってない平凡みたいに書かれといて結局何かしらの才能持ってるんだよな、羨ましい。
この物語はスピーチライターっていう職業にまつわる話になってる。スピーチライター、その名の通りスピーチを書く人。えらい社長だとか議員だとかのスピーチを、人の心を掴むような言い回しを駆使して作り上げる。要するに言葉の持つ力を最大限引き出すことができる人たちのこと。

スピーチって確かに死ぬほど聞くのがダルい人も居れば、聞いててめちゃくちゃ面白い人もいるよね。この本を読んで校長先生の話を思い出した。小学校から中学校まで、校長先生の話ってとにかく長いし内容はどうでもいいしそれ今話す必要ある?って感じのが多かった。貧血で倒れる子が居るとやっと眠気が覚める感じ。同様にPTAの話も非常につまらん。真面目に聞いてるとなんか同じ事を何度も言ってるんだよな。それさっき校長先生も言ってたよ、とか。格式張った言い回しばっかりで結局その人が何を言いたいのかわからなかったりとかね。コピペか?ってぐらいお粗末な人もいた。この無駄な時間を勉強に当てたら学生の成績も伸びるのでは?ってぐらいにスピーチを聞くのが嫌いだったんだ。

でも高校のときの校長先生は一味違った。一味というかもう格が違った。私の母校は地元で一番いい進学校で、歴史もある。私の父の母校でもある。そんな学校の生徒を、当時の校長先生は「スーパー」と評した。うちの学校のみんなはすごい、君たちはスーパーなんだ。そういう意味を込めて、校長先生の話の時はたったワンフレーズを言うだけだった。初めての時は、こうだった。

「長々と話す必要はありません。僕が言いたいのはこれだけ。(マイクから少し離れて大きく息を吸い込み)がんばれ!スーパー◯◯校生!!!

かなりの衝撃だった。自分達生徒をスーパーと呼ぶこと、それだけなら苦笑気味で生徒の心なんて掴めなかったと思う。でもその校長先生はことあるごとに、色んな集会で必ずといってこのフレーズを叫んだ。生徒たちはみんなそれを新鮮に感じたんだと思う。だって校長先生の話といえば、長いしどうでもいいし今それ話す必要ある?っていう退屈なものだったはずなのだ。ワンフレーズで終わる校長先生の話。しかもマイクから離れて腹から叫ぶ校長先生。そんなことある?

今までのと違う、生徒のために聞かせてくれる“校長先生の話”だ。すごく好きになった。その校長先生は2年かそこらで転勤していってしまって、また普通の話をする普通の校長先生が来た。

卒業式の日、転勤していった先生からのビデオレターが代々流されることがある。例の校長先生が映った瞬間、生徒たちから歓声が上がったのをはっきり覚えている。こんなに好かれる校長先生がいるのか、とびっくりした。なんなら私もギャーーー!って叫んだ。卒業おめでとう、とか軽い挨拶のあと、ビデオの校長先生が大きく息を吸った。もうここでみんな期待大。
『がんばれ!スーパー◯◯校生!!』
ものすごい歓声と拍手が体育館で鳴っていた。シンプルにすごいと思う、こんなに好かれる校長先生。楽しみにされる校長先生の話。壇上に上がると期待されるフレーズ。すごい。すごい先生だ。

という経験が過去にあったためにスピーチっていかに人に聞かせるかが重要だってよくわかっていた。その上で確かに理解しやすい読んでて面白いスピーチがされるこの本。言葉の力で世界を変えるってのはさすがに言い過ぎじゃねーの?って感じるけど、実際この物語では世界が変わった。言葉を聞いたのは人々で、世界って人々で出来てるから。なるほどねー、才能ってのはそれを見つけてくれる人と正しく発揮できる環境が必要なんだなあと感じた。

要するに、言葉は、使いよう。
私も上手く言葉を扱える才能が欲しかったなあ。いや、普通に何かしらの才能が欲しかったし、こと葉みたいに才能を見つけてくれる師匠との出会いが欲しかったなあ。