春もしくは秋、風の強い日、教師の視野から外れやすい窓際の席で、風を受けて舞い上がるカーテンに自分だけが隠れるあの瞬間が堪らなく好きだった。

元々熱心にも聞こえないトーンをした教師の声が数秒の間一層遠くなる気がして、生徒のうちの一人にすぎなかった自分が途端に一個体としての自分と意識できる気がして、つまり勉強や授業はそっちのけで意識の表面だけでも自分の世界に入れるあの短い時間は、数十年という長い人生のうちにおいて数個と挙げられる価値ある印象的な経験であると思う。

さながら帆船の帆の様に面積いっぱいに風を受けて大きく膨らむカーテンの中。すぐにまた私の髪を乱して頭上を擦りながら窓の外まで吸い込まれて行くのだが、膨らんだ空間の中に閉じ込められたような、もしくはむしろ匿われたような、非日常とも言えはしないほどの小さな「おや」という感覚は、何度味わってもその度に新鮮で不思議な、空想的な気持ちを抱かせるのである。